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東京地方裁判所 昭和48年(ワ)5953号 判決

原告

株式会社佐竹製作所

右代表者

佐竹利彦

右訴訟代理人弁護士

田倉整

被告

三陸農林株式会社

右代表者

青木豊

被告

大倉商事株式会社

右代表者

伊藤英二郎

右被告両名訴訟代理人弁護士

根本博美

外三名

右控訴代理人四名輔佐人弁理士

浜田治雄

山本喜幾

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求める裁判

一、原告

1  被告らは、別紙目録記載の精米装置を製造し、販売してはならない。

2  被告らは、原告に対し、各自金二、六八八万円及びこれに対する昭和四八年八月一八日以降支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告らの負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二、被告ら

主文と同旨の判決を求める。

第二  請求原因

一、原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許発明」という。)を有する。

1  発明の名称 精米装置

2  出願 昭和三五年八月一三日(特許願昭三五―三五〇一一)

3  出願公告 昭和三六年一二月一四日(特許出願公告昭三六―二三六八三)

4  登録 昭和三七年五月一二日(第四〇〇八七五号)

〈後略〉

理由

一原告が本件特許権を有すること、本件特許発明の特許請求の範囲(以下「特許請求の範囲」という。)が原告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

二右争いのない特許請求の範囲の記載によれば、本件特許発明は、次の要件から成るものであると認められる。

(イ)  一回通過完了噴風摩擦式精米行程を有し、

(ロ)  (イ)行程の前行程に揚米機を設け、

(ハ)  (ロ)の行程の前行程に籾穀風選行程を設け、

(ニ)  (ハ)行程の前行程に一回通過完了脱桴行程を設け、

(ホ)  (イ)ないし(ニ)の行程を直列に配列してまとまつた構造とし、

(ヘ)  たことを特徴とする精米装置

三原告の主張によれば、本件特許発明は少量脱桴作用を行う脱桴機と一回通過完了の噴風摩擦式精米機とを組合せることにより、従来籾玄米の選別行程に必須であつた万石を省略することを可能ならしめ、脱桴行程を通過した玄米と籾米とをそのまま精米機に流すようにした「省略の発明」であるということであり、成立に争いのない甲第二号証(本件特許公報)中にも右の原告主張の趣旨に沿うような記載がある(第一頁右欄一三行目ないし第二頁左欄四行目)。しかしながら、従来籾玄米の選別行程に必須であつた万石を省略することが発明として成立するためには、精米装置を具体的にどのような構成とすることにより万石を省略することが可能となるかの点についての技術的思想の創作がなければならない。けだし、そうでなければ、万石を省略するということは、これが省略できれば、これを設置するために要する場所及び籾玄米選別行程を省略しえて、場所及び時間を節約し得るという単なるアイデアないし解決課題そのものであるに止まり、未だもつてこれを発明ということはできないからである。

本件特許発明は、前認定のとおり(イ)ないし(ニ)の行程を直列に配列してまとまつた構造としたことを特徴とする精米装置に関するものであるところ、右(イ)ないし(ニ)の各個の行程をとり出せば、その行程の作業を行う機械は本件特許発明の特許出願前すでに知られていたものであることは原告自身の主張するところであり、右公知の機械を本件特許発明におけるように直列行程に配列してまとまつた構造としたところで、なぜそのゆえに万石を省略し得るようになつたのかという点については、本件明細書の特許請求の範囲自体にはなんら示されるところがない。およそ籾米から精米を得るためには籾米から籾穀を取り去り(脱桴)、玄米から糠を取り去らなければならないことは今更説明するまでもないことである。しかして一つの機械で脱桴行程、精米行程という複数の行程を経ることなく、単一の行程で脱桴から精米までを行いうるような機械があれば、複数の行程を経る必要がないこともまたいうまでもないことである。本件明細書自体も、「この発明に用いた精米室は噴風室で高圧系の摩擦式精米作用を主作用とするものであるから強いて応用するとせば籾精米さえ行うことができる。」(本件公報第一頁右欄六行目ないし九行目)として精米機が高性能のものであれば精米機だけで脱桴及び精米を行い得ること、従つて万石をも不要のものとし得ることを示唆している。しかし、だからといつて本件特許発明がそのような精米を行い得る機械の構造自体にあるのではないことはその特許請求の範囲の記載自体から明らかである。

右に説明したように本件特許発明が特許性を有する点は、万石を省略したところにあるとは認められず、しかしておよそ籾米から精米を得るためには、精米機あるいは脱桴機だけで脱桴から精米までを直ちに行い得るような機械によるのでなければ、精米行程の前行程に揚米機を設け(〈証拠〉によれば、本件特許発明の特許出願の願書に添付された最初の明細書の特許請求の範囲の記載は、「一回通過完了脱桴行程をなす脱桴転子を上部に又一回通過完了精米行程をなす精米転子を下部に配置し該両行程を直列行程に配列して一体的に纒つた構造となしたことを特徴とする精米装置。」というものであつて、脱桴装置と精米装置が上下の関係にあり、従つて揚米機の存在はその要件とされていなかつたが、その後手続補正によつて現明細書のとおり補正されたものであることが認められる。)、その前行程に籾殻風選行程を設け、その前行程に脱桴行程が設けられることが、もし万石行程が省略しうるものとすれば(原明細書におけるように脱桴機と精米機とが上下の関係にあるのでなければ)、通常のことであると認められるから、本件特許発明における創作性がそのような行程の配列にあるものと認めることができないことはいうまでもない。そして右のような通常の行程においてこれらの行程を直列に配列すること自体に格別の意味を見出すことはできないから、結局本件特許権を有効なものとして見るとすれば、本件特許発明は右に述べた行程が直列に配列されて「纒つた構造」とされた点に特許性ありとして特許権が付与されたものと見ざるを得ないことになる。しかしてまた、右に述べたような行程を一つの「纒つた構造」にすること自体は、いかなる構成を用いて纏つた構造」にしたかの点について特許性があるものでなければ、それについて特許権を与えられることがないものというべきである。

そこで本件特許発明は、いかなる構成を用いて前記行程を「纒つた構造」のものとしたのであるかの点について見るに、前掲甲第二号証(本件特許公報)中の発明の詳細な説明の項に「この発明は……脱桴機と精米機の個々の設備を困難とする狭隘な場所でも両機能を並備した設備が簡潔に成立し」(第一頁右欄二四行目ないし三〇行目)とある点、添付図面には一台の送風機から出る送風管が精米ロール内に給風する送風管と風選室に開口する送風管とに分岐しているように図示されている点及び発明の詳細な説明の項に添付図面の説明として「22は脱桴室4と精米室12を一体的に定着した機枠台である。」(第一頁左欄下から一一行目ないし一〇行目)と記載されている点を総合すると、本件特許発明における「纒つた構造」とは、前記(イ)ないし(ニ)の行程の作業を行う各装置が不可分的に結合されて一つのまとまつた構造となつているものをいうものであると認められる。

四一方、被告製品においては、脱桴機、精米機、エンジンと台(車)の右機械にそれぞれ対応する位置に穴が設けられ、この穴を合せてボルトを通しナツトで締め上げられているものであることは当事者間に争いがなく、右争いのない事実と弁論の全趣旨を総合すると、被告製品における脱桴装置はこれを台(車)から取外して脱桴のみを行わせ得ること、精米装置もまたこれを台(車)から取外して精米のみを行わせ得ることが認められ、従つてこの意味で装置全体が本件特許発明におけるような「纒つた構造」をしているものではないと認められる。

五以上説明のとおりであつて、被告製品は本件特許発明の構成要件を充足しないから、これが充足することを前提とする原告の請求は、その余の点の判断をするまでもなくその理由がない。よつてこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(高林克己 清永利亮 木原幹郎)

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